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顎関節症の説明

はじめに

顎関節症は僕が大学にいた頃と少し分類が変わってきた。ずっとこうじゃないかなと思っていたが、科学的根拠がなくぼんやりしていたものがやっと論文にされ、科学的根拠を得た。そんな話をしていけたらなと思っている。

顎関節症の分類

まず、顎関節症学会が提言している分類を書いていこう。昔は日本独自の分類でやっていた(僕が大学や大学病院にいた頃)のだが、世界の顎関節症の分類に合わせてきた形になる。それでは顎関節症とはというところから書いていこう。詳しく書いていますが、そんなに詳しくいらない方は後半の「要約」からお読みください。

顎関節症とは

顎関節症(TMD: Temporomandibular Disorders)は、顎関節や咀嚼筋の疼痛(痛み)、関節(雑)音、開口障害ない し顎運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名で、 その病態分類は咀嚼筋痛障害、顎関節痛障害、顎関節円板障害および変形性顎関節症である。TMD の多くは 時間経過とともに改善、治癒していくことが示されており、 米国歯科研究学会(AADR) による TMD 治療指針では、 初期治療は病態説明と疾患教育に始まり、可逆性である 保存的治療が主体として行われるべきと示されている。(顎関節症学会診療ガイドラインより)

ざっくり言うと、顎関節症は4つに分類されていて、基本的に初期治療は病気の説明と可逆的(止めることのできる、戻ることのできる)治療になる。みたいな内容だ。

他のところにも書いているのだが、まず大切なのは顎関節症とちゃんと診断することで、それからの話だとされている。

顎関節症Ⅰ型

咀嚼筋痛障害。つまり筋肉のトラブルだ。食いしばりなどがあり、エラのところ(咬筋)や側頭部(側頭筋)が痛むことがある。不要な力が入った筋肉痛に近いものだと思ってもらったらいい。

顎関節症Ⅱ型

顎関節痛障害。これは関節部の痛みだ。これも食いしばりや顎をぶつけたりすること(外傷性)が原因になったりするのだが、関節部が痛い場合Ⅱ型になる。顎関節部は耳の穴の前の辺りだ。

顎関節症Ⅲ型

関節円板障害。顎関節は他の部位の関節にはない可動性の軟骨がある。これを関節円板と言う。これはさらにa型とb型に分類される。

a型は関節円板が復位するもの(復位性関節円板前方転位)。開口時にクリック音(コクっという感じの持続時間の短い単音)を生じて, 下顎頭が関節円板の後方肥厚部を乗り越えて中央狭窄部にすべりこんで下顎頭 -関節円板関係は正常に戻るものの,閉口していくと円板が再び転位してしま うものである(図3)。開閉口時に一度ずつ生じるクリックは相反性クリックと 呼ばれる。開口時クリックが生じる時期は,関節円板の転位や変形の程度と関 連があり,最大開口位に達する直前にクリックを認める場合のほうが,開口初期にクリックが生じる場合よりも,関節円板の転位や変形の程度は大きい。多 くの場合,開口時に下顎頭上に復位した関節円板は閉口時に下顎頭とともに関 節隆起を乗り越えて下顎窩に戻り,下顎が咬頭嵌合位に復する直前まで正常な 位置を保っている。しかしながら,時に閉口初期に閉口時クリックが生じることがある。

b型は復位しないもの(非復位性関節円板前方転位)。どのような下顎運動を行っても関節円板が前方に転位したままであり,下顎 頭の運動制限により開口障害が生じるものである。クローズドロックは, この非復位性関節円板前方転位に随伴する開口障害の通称である。また,通常 はクリックあるいは相反性クリックの状態であるが,間欠的にあごが引っかか り開かなくなるクローズドロックの前段階(間欠ロック)の病期が存在する。 復位性関節円板前方転位の一部は,非復位性へと進行する。持続していたク リックは消失するが,前方に転位した関節円板が,患者のいかなる自発運動に よっても復位できずに永続的に前方転位したままの状態となり,患側下顎頭の 前方移動量が制限され,それに伴って開口障害と開口路の患側偏位が生じる。 しかし,常にこのような病態の進行過程をたどるとは限らず,無症状者やクリ ックの既往のない者にも非復位性関節円板前方転位が生じていることが数多く報告されている 。

顎関節症Ⅲ型は一番多く、特に若い女性が多いとされているが、これからこの患者は増えると僕は予想している。

顎関節症Ⅳ型

変形性顎関節症。関節に関わる骨や軟骨などの組織が吸収や断裂などの変化を伴い、臨床症状としては関節雑音(特にクレピタス:捻髪音:持続時間の長い摩擦音),顎運動障害,顎関節部の痛み(運動時痛,圧痛)のうちいずれか1つ以上の症状を認めるもの。

要約

ざっくり言うと顎関節症Ⅰ型は筋肉痛、顎関節症Ⅱ型は関節痛、顎関節症Ⅲ型はa型がコリコリ音がなる。b型が2横指(指2本分)開かない。顎関節症Ⅳ型は変形を伴う関節炎と思ってもらっていい。

顎関節症の原因

最初に書いたずっとこう思っていたと言う内容に関してだが、それは「顎関節症に姿勢が関係あるのではないか?」というものだ。そしてそれは2023年に論文で示された。

姿勢と顎関節症が関わりがあるという論文

興味のある方はリンクを貼っておくので詳しい内容を見てください。ざっくりいうと首が前に出ている(以下猫背とする)ひとは顎関節症のリスクが高いよねみたいな内容だ。皆さんもよく考えてほしい。ヒトという動物が二足歩行をする上で頭の位置がかなり重要であるということを。自分の重さの1/10もの重さがあるものが、高い位置にあるのだ。これが背骨の上に乗るのではなく、前にきている(首が前にきている、猫背)とバランスをとりにくいと思わないだろうか?これがロボットなら倒れてしまう。しかし、ヒトは猫背でも倒れない。首の後ろの筋肉や腰の筋肉が後に引っ張ってくれているからだ。姿勢が悪いと一日中肩や腰の筋肉が引っ張り続けないといけないのだ。そりゃ肩こりや腰痛になるだろう。細かい姿勢の話は今回割愛するが、頭の位置というのが重要であるということはわかってもらえただろうか?

では、猫背の時にヒトはどのようにバランスを取るのか、あるひとは首の後ろの筋肉が頭を後に引っ張るだろう、またあるひとは腰の筋肉が上半身を後ろに引っ張ってバランスをとるだろう。でわもう少しミクロに見て頭だけ見たらどうだろうか?下顎は頭にぶら下がっている状態になっている。猫背の時にどうしないといけないかというと後上方に引き上げないといけないのだ。その結果、顎の筋肉は一日中引き上げ続けなければならず、食いしばりが起きた結果、顎関節症Ⅰ型になり、ずっと関節窩に関節頭が擦り付けられた結果、顎関節症Ⅱ型になり、下顎骨が後上方に引き上げ続けられた結果、関節円板が前方に転位し、顎関節症Ⅲ型になり、それらが長い時間起きた結果、関節が変形し、顎関節症Ⅳ型になる。

これが、僕の考える顎関節症になるメカニズムだ。もちろん姿勢だけが原因ではない。例えば僕自身が顎関節症Ⅲ型a型であるのだが、これは空手をしている時に相手の攻撃で脱臼したことが原因だ。つまり外傷性ということになる。ただ、多くの顎関節症は姿勢が原因だと考えている。あくまで顎関節症は複合的な要因なので、姿勢だけが原因ではないのだが、姿勢も原因である以上見ないわけにはいかないと考えている。

ちなみに、この姿勢の悪さからくる食いしばりでTCHと言われる上の歯と下の歯が当たる現象が起きて、それが知覚過敏の原因になったりもする。これも長くなるので今回は割愛するが姿勢が知覚過敏に関係する可能性すらあるのだ。

当院でのアプローチ

これらのことから僕は基本的に顎関節症を疑う患者さんが来たらレントゲン撮影などをして「話をする」。まず、診断が大事であることと、原因が姿勢であるならば、本人の注意だけで治る可能性があるからだ。「話をする」これほど患者さんに侵襲のない治療はあるだろうか?

実際僕は姿勢の話や指導をして、顎関節症や知覚過敏の症状を治したことが何度もある。姿勢を改善してあくまで副産物ではあるのだが、肩こりや腰痛、股関節痛なども改善したという患者さんもいた。これは歯科の領域ではないので、僕が治療したというわけではなく、歯科からのアプローチとして姿勢の改善が必要でその結果現れた副産物でしかない。

それでも改善しなければ、そこからスプリントと言われるようなマウスピースを作り治療をしていくということになる。これも外せば止められる可逆的な治療だ。基本的に顎関節症は時間経過でも改善することの多い病気ではあるので、ここまでで大体改善する。

もしご興味のある方は当院でまずは相談からしていただきたい。

おわりに

僕の治療方針は顎関節症学会のガイドラインに完全には沿っていない。顎関節症学会の専門医でもない。あくまで太田啓介という歯科医師が個人的な価値観でしているもので、「姿勢と顎関節症が関係ある」ということも一般的に知られていることではない。そして、あくまで顎関節症は複合的な要因でその複合的な要因の中に姿勢があるというものだ。今回紹介した論文も2023年4月のもので、普段から論文を読んでいる開業医は非常に少ない。僕も論文を普段から検索はしているが、あくまで興味のある範囲だけだ。この論文内容は一般的に周知されていない。

姿勢に歯科が非常に重要に関わることを皆さんに知ってもらいたいし、姿勢に関わる職種(理学療法士、柔道整復師、鍼灸師、ATなどのスポーツトレーナーなど)の方ともっと連携を取らないといけないと考えている。