ブログ
DOHaD仮説ってご存知?
はじめに
一応、僕は抗加齢医学会の専門医だ。アンチエイジングの専門家と言っていいだろう。抗加齢歯学会という歯科の学会もあるのだが、医科の方で専門医をとった。健康の最前線の情報を手にいれるためだ。歯科では枠が狭すぎる。その中で『DOHaD仮説』というものを知った。僕は予防をメインに考えていて、歯科矯正を含む治療をしないでいい子育てというものを研究してきた。その中で、キリがないので生まれてからという時間軸で情報を発信してきた。実は歯並びにおいても妊娠期の姿勢なども重要になってくると考えているのだが、それはあくまで僕の個人的見解だ。
しかし、医科においては妊娠期から子どもの病気のリスクについてのデータが出てきている。その理由を説明するための説が『DOHaD仮説』だ。
と、いうことで書いていこう。
『DOHaD仮説』とは
『DOHaD 仮説』とはデベロップメンタル オリジンズ オブ ヘルス アンド ディズィーズ(英語で書くとバグが起きて保存できなかった)の略で「健康と疾患の発達起源説」と言ったところで、簡単にいうと、病気と健康は発達段階(胎児期や乳児期)に由来するという考え方だ。
これは歯科的にもシンクロする部分があるかなと思っている。胎児期の姿勢や乳児期の哺乳の仕方などの影響を受けることを考えると、歯科的にも『DOHaD 仮説』というものは成り立つだろう。
もちろん全てではないのだが、病気によっては胎児期や乳児期の過ごし方によって病気になるリスクが上がるというものだ。どういった病気がそれに含まれるのか、論文ベースでお話していきたいと思う。
関与が強く疑われている病気
2型糖尿病、高血圧や心血管疾患、肥満・代謝症候群などは関わりが強いと言われている。
あくまで関係性が強いだけで胎児期の母親の行動でこれらが決定するわけではない。あくまでリスクが上がるだけだ。
そのほかには精神疾患〔うつ病、統合失調症など〕、自閉症・ADHD、免疫・アレルギー疾患、腎疾患・骨粗鬆症などが研究されている。これらはいくつか論文はあるのだが、上記の3つの病気ほど確定的なものはまだない。
胎児期や乳児期にどういったことがあるとこういったリスクが上がるのだろうか。
妊娠期に注意しないといけないこと
特に妊娠第3期(28週以降出産まで)が重要なのだが、この時期に胎児の臓器が成熟する。この時期に飢餓状態や過栄養になるとインスリン感受性低下などが発生し、太りやすくなる。昨今のお母さんは細過ぎるのだ。若い女性の細いは美しいという概念は健康上良くないということが証明されている。現代の2,30代女性の摂取カロリー平均は戦後すぐの2,30代女性の摂取カロリーを下回っていると言われている。この飽食の社会でとんでもないことが起きている。
女性は「男性が細い女性を好きだ」からだという。確かにそういう男性もいるだろうが、おそらく男性は女性に適度な肉付きを求めていると僕は思う。僕個人の意見だが、「女性が思う男性の好きな女性像が細過ぎる」と思っている。男性のいう細いは多分そこまでではない。
少し前までは妊娠高血圧症の関係であまり太ってはいけないと言われていた。しかし、今ではある程度は太った方がいいのと、出産の苦労を減らすために少し小さく産んで、予定出産してみたいなことも多かったが、小さく産むということのリスクが考えられる今、大きく産める(およそ3000g以上)なら大きく産んだ方がいいという流れになってきている。
誤解のないように
こういう話をすると「出産してないくせに」とか「男がとやかくいうな」とか「小さく生まれたらダメなのか」などというひとが一定数いるのだが、僕が話をしているのはあくまで統計の話だ。確率論でしかない。例えば2型糖尿病であったとしてもなりやすくはなるが、なることが決定したわけではない。もっというと妊娠期にしっかり食べてしっかり運動していた場合でも子どもが2型糖尿病になることなどいくらでもある。
病気の治療やリスクは確率論でしかなく、最終的には個別事象を観察しなければならない。してはいけないことは、その人がしてよかっただけの1例報告をさもいいことのように拡散することだ。それはそれこれはこれで分けて考えなければならない。
小さく生まれたらどんなことが起きやすいか
まず、歯科的な話をすると乳歯が生えてくるのが遅い。男児では相関はないという論文もあるが、女児ではその傾向が強いそうだ。その後の栄養状態にもよるが、妊娠期にビタミンDが不足しているとエナメル質の形成不全が起きやすいということもある。そして、女児の場合は初潮の来る時期が早いなどもある。これは環境に早く対応するためにそうなったのではないか?と言われている。
この部分のDOHaD仮説をわかりやすく説明すると、胎児期にプログラミングされていて、胎児期では母が栄養不足であるため飢餓状態にある。生きるためには数少ない栄養をしっかり摂らないといけないというモードで生まれてくることになる。しかし、現代日本では栄養は十分ある。生まれる前と生まれてからでは環境が違いすぎるのだ。しかし、胎児期プログラミングでは適応戦略として、「早く大きくならないといけない」というプログラミングをされている。その中で生まれてからの環境はいいので、「性成熟の早期化(思春期早発)」が起きるのだ。これはいいことではなく、DOHaD的な「キャッチアップ成長〔小さく生まれたので早く大きくなりたいみたいな成長〕」または「適応的早熟」の一形態とみなされる。
必ずしも全ての発達が早いわけではないので、いいことでもない(かといって悪いことでもない)。
注意しないといけないのは肉体的な急激な増加だ。例えば、2歳までの急速な体重増加は7歳時点の肥満やインスリン抵抗性と優位に関連していたり、早期に乳児や幼児で身長が伸びると骨端の閉鎖が早く、最終身長が抑制される傾向がある。
これは妊娠32週以下の例だが、精神発達などにおいても、言語・コミュニケーション(β = −21.924, p = 0.013)/ 手眼協調(β = −15.446, p = 0.015)/ 学習基盤スキル(β = −15.211, p = 0.013)に有意な遅延が認められたとされている。(根拠論文)
ただ、現段階では低体重や早期出産は発達障害のリスクの一つではあるが、完全に関係があるという論文はない。今後研究が進めば明確な関係を示す論文が出るかもしれない、そんな状態だ。
おわりに
僕の最終的な目標は『日本の子どもを心身ともに強くすること』だ。その中で、育児に力を入れてきた。ただ、実はそれより前に健康な女性を育てることが必要だということもわかってきた。これには女性の社会進出や、男性の育児休暇など社会的な問題も多く含まれる。
僕はあくまで一歯科医師なので、正直最終目標すら大風呂敷を広げていて、大した力はない。
できることといえば、せいぜい社会に有意義な情報を拡散するぐらいだ。
皆さんもなるべく信頼度の高い情報に耳を傾け、アンテナを立て、そして情報のソースを調べるということはルーティーンにした方がいい。