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直母拒否〜赤ちゃんの気持ち〜
はじめに
多分たまたまだと思うのだが、SNSで直母拒否されてショックというワードを立て続けにみた。そして、そのポストは共感を呼んでいた。ちなみに直母とはお母さんが赤ちゃんにおっぱいから母乳をあげる行為のことをいう。
確かに母の立場としてはショックだろう。10ヶ月ほどお腹の中にいて、苦労して産んで拒否されてはショックという気持ちはわかる。しかし、断言していい。
赤ちゃんはママを拒否したりはしないし、大好きだ‼️
パパはいらないされることはあってもママを拒否したりはしない。ただ直母拒否という態度をとる赤ちゃんには事情がある。そのことを理解できたら直母拒否されたお母さんの気持ちが少し晴れるのではないかと思い、この記事を書く。
かなり説明が長くなるのと、男性の僕が書くにはセンシティブな内容になるので、注意して書こうとは思うが、なるべく注釈を入れるので最後までしっかり読めるひとだけ読んでほしいと思う。
直母拒否はなぜ起きるのか?
まずはこれを理解しないといけない。ゴックンと飲むことを専門的な言い方で『嚥下』という。この『嚥下』という行為は生まれてから後天的に覚える行為になる。厳密にいうとお腹の中でも羊水を飲んだりしているのだが、重力下で肺呼吸をしながら嚥下をするのは生まれてからということになる。
ヒトという動物は長い進化の過程で正しくステップを踏めば立ち上がり、二足歩行できるようになっている。
その中で『嚥下』というのはかなり最初のステップになる。
普通に出産されれば、生まれてオギャーと泣いて仰向けのお母さんの上に乗せられておっぱいを飲むこれが最初の『嚥下』ということになるだろう。
『嚥下』には正しい『嚥下』の仕方というものがある。これを覚えやすいのがおっぱいで母乳を飲む飲み方というふうにヒトという動物はデザインされている。哺乳瓶で人工乳(以下ミルクとする)を飲む飲み方とは違うことが多い。仮におっぱいで母乳を飲む飲み方をA、哺乳瓶でミルクを飲む飲み方をBとしよう。
生まれてお母さんの上に乗せられて以来、ずっとAで行っていたらおそらく直母拒否は起きない。どこかのタイミングで哺乳瓶での授乳を練習したり、未熟な状態で生まれてとてもAができないので最初からBというパターンの赤ちゃんで直母拒否が起きる。
つまり、『嚥下(飲み込み方)』の違いがあることによって直母拒否は起きているのだ。
赤ちゃんの気持ち
直母拒否のない赤ちゃんの場合、
AでずっときてるからAっていう飲み方で飲めてる。
直母拒否がある赤ちゃんの場合、
Bでずっと飲んでるのにAじゃお乳飲めないじゃん!AじゃなくてBの飲み方でお乳が出るのちょうだい。
お分かりいただけただろうか。おっぱいと哺乳瓶では飲み方の違いがあることから自分が飲みやすい方を選んでいるだけであって、ママを拒否しているわけではないのだ。
赤ちゃんの気持ちとしては「生きるためにお乳がほしい。」ただそれだけなのだ。間違ってもママを拒否しているわけではない。
哺乳瓶はダメなのか?
もちろんそんなことはない。男性の育児参加には必須アイテムであるし、昨今の女性の仕事のキャリアなどのことを考えると子どもを預ける必要があったりなどして、使わないといけない道具ということになる。中にはおっぱいで母乳をあげたいけど、病気や母乳の出が悪くてあげれないというひともいるだろう。そういったひとたちにも必要な道具なのだ。
哺乳瓶の利用で理解しないといけないこと
まずはおっぱいで飲むのとは飲み方が違うということだ。赤ちゃんは説明できないがそれがあるということを知っているとそれだけで直母拒否のショックは和らぐだろう。流石になくなるとまでは言わないが、赤ちゃんの気持ちがわかればそらそうかと思う部分もあるだろう。
次に哺乳瓶の乳首はだんだん負荷をあげる必要があるということだ。おっぱいから飲む飲み方は哺乳瓶より少し複雑な動きをしないといけない。それがAとBの差にもなるわけだが、Bで限りなくAに近づけるためには負荷は必要になる。
次に哺乳瓶でミルクをあげる時は赤ちゃんがなるべく上を向かないようにしてほしいということだ。これは『嚥下』にも関わることなのだが、上を向きながら正しい『嚥下』はできない。
最後に大事なことはおっぱいで母乳をあげたいとか、私は哺乳瓶を絶対使うんだとか、こだわりすぎないことだ。授乳は毎日のことであり、親サイドに負荷が多いとストレスが多くなる。少しでも楽にできることが大事だし、しんどいこだわりは捨てるというのも時には非常に大事なことだ。
おっぱいで母乳は正義
先述した内容でしんどいこだわりについて少し話をしたいと思う。たまに聞かれることがある。「おっぱいがいいか、哺乳瓶がいいか」、「母乳がいいか、ミルクがいいか」という質問がある。これは「おっぱいか哺乳瓶かならおっぱい、母乳かミルクなら母乳」というのが答えになる。
これは統計が出ていて、おっぱい育児と哺乳瓶育児ならおっぱい育児の方が歯並びが悪くなる可能性が低いことや、中耳炎のリスクが低いことなどは論文のデータとして出ている。母乳かミルクかに関しては母乳にあってミルクにない栄養素があるので母乳の勝ちということになる。
つまり理想を言えば、おっぱいで母乳で育児しましょうということになる。じゃあそうしましょうとなるだろうか。それができるひとはそれでもいいと思う。しかし、これは女性におよそ1年、仕事への復帰のハードルが上がるし、さっきも例をあげたたように母乳が出にくいや、薬の関係であげたくてもあげれないという事情がある場合など哺乳瓶やミルクを使わないといけないひとというのは存在する。それがダメなんてことはないのだ。
統計と個別事例
これは医師サイドも一般の方もちゃんと分けて整理しないといけない。データと目の前の1例と分けて考えないといけないし、情報の発信も考えないといけない。例えば、今回で言えばおっぱいで「母乳育児の方が哺乳瓶でミルクで育てられた子どもより歯並びが悪くなりにくい」という情報がある。これは『統計』だ。しかし、もちろんだが100%ではない。おっぱいで母乳で育てられても歯並びが悪いひともいるし、哺乳瓶でミルクで育てられても歯並びがいい子もいる。「私の子は哺乳瓶でミルクで育てたけど歯並びがいい」これは『個別事例』だ。
よくインフルエンサーがステマみたいなので使う私はこれで良かったみたいなのは『個別事例』で科学的根拠などではない。これを信じるのは好きにしたらいいが、正直あまり意味のない情報だ。論文で出てくるような統計学的な処理をして有意差がある。これは『統計』で意味のあるデータということになる。
個人でよくある落とし穴は『個別事例』を正しい情報として盲信することだ。
そして、医師サイドである落とし穴は『統計』の正しい情報しかみずに、目の前の『個別事例』が『統計』の値の少ない方である可能性を見落とすことだ。
これらの情報をごっちゃにしているひとが多いようにも思う。皆さんも情報のリテラシーはあげていきましょう。
おわりに
さて、長々と文章を書いてきたわけだが、これらの知識のおかげで少しでも皆さんの育児の負担が減れば幸いだ。赤ちゃんのことを知れば、少しはストレスが減ると思うのだ。
ストレスの多くは「何を考えているのかわからない」、「なんで泣いているかわからない」、「何をしてあげていいかわからない」、おおよそこんなとこだ。赤ちゃんの気持ちがわかればいくらかマシになると僕は考えている。
そして、そういったお悩みやストレスを解消する講義もしている。その題は『赤ちゃんRPG』だ。赤ちゃんがどんな無理ゲーに挑んでいるのか知ることができる。それを知ると子育てがもっと楽しくなること請け合いだ。
ということで、結論としては、赤ちゃんはママのことが大好きで、拒否をすることなんてないってことを知ってもらえたら嬉しい。