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本当にあった怖い話 症例#1

はじめに

僕は自分が住んでいる地域の警察医をしている父の代からしているが、40年以上出動したことはない。歯科医師の場合、身元不明遺体が出た時に、歯科の治療痕から本人を同定することがある。僕が住んでいる地域では身元不明遺体が出ないので、出動経験がないのだ。

身元不明遺体の歯科の治療痕をチェックしたり、火事で見た目ではわからない場合などに歯科医師の警察医は呼び出される。地元の警察医はなぜか辞める方法が記載されておらず、死亡時に勝手に名簿から消されるシステムのようだ。

ただ、僕自身は出動したことはないのだが、警察に「この治療痕に記憶はありませんか?」と言われたことはある。その時の話だ。

ある日の昼の話

お昼休みの前だったか、警察が当時働いていた実家の医院にきた。

母が僕に言う「あんたなんか悪いことしたんか?」

僕は自分で言うのもなんだが、割と真面目に生きている方だし、そんなことはない。

昼休みになるので警察に話を聞いた。

話を要約するとこうだ。

奈良県(実家は奈良)の南部(ほぼ山)の山の中で身元不明の遺体が発見された。すでに白骨化しており、死後半年は過ぎているとのことだった。死亡していたのは男性(仮にここではAさんとする)で中年か初老ぐらいだろうとのことだった。そして、歯科の治療痕はこうですと見せられたのだ。

Aさんは幸か不幸か義歯をしていた。義歯は全て完全にオーダーメイドでデザインに歯科医師のクセが出る。つまり自分が作ったかどうかがわかりやすいのだ。むしろ歯科医師であれば自分が作ったかどうかぐらいわかると言って過言ではないだろう。

そして、そのデザインは明らかに僕のものではなかった。

警察に話を聞いたところ、奈良県で見つかったので奈良県の歯科医院をしらみ潰しにあたっているとのこと。もし、奈良県の歯科医師に心当たりがなければ、大阪まで当たる歯科医院を広げていかなければならないとのことだった。奈良県は歯科医院の数が少ないのだが、大阪までなれば莫大な数を当たらなければならなくなる。果たしてどうなるのか?

歯科医師見つかる

警察の地道な捜査の結果、奈良県で「僕が作ったかも」という歯科医師が現れて、結局本人が同定された。歯科医師仲間もこれは大層喜んだ。歯科医師が家族の元に遺体を帰すのに一役買ったのだ。聞くと奥さんと娘さんがいるとのことで、家族も大層喜んだだろうと。おそらくお父さんがある日行方不明になってそれっきり帰ってきていないのだ。お父さんも家に帰りたかっただろう。そんな思いだった。

みなさんは行方不明になったら警察に届け出を出して、携帯やスマホの位置情報からすぐに見つかると思っているのかもしれない。実は警察は携帯の位置情報(最終の電波の発信基地や、GPSなど)は家族といえども教えることはできない。本人の意思でいなくなっている可能性があるからだ。虐待やDVを苦になんとかタイミングをみて逃げたのかもしれないし、若い女性などであれば駆け落ちや今回のAさんの場合であれば不倫の末に行方をくらませた可能性もあるのだ。

みなさんも警察の立場になって考えてほしい。

若い娘がいて、急にいなくなったとする。警察に「ウチの子を探して!何も言わずにいなくなったりしない!」と言ったとする。警察は若い女性なので「DVや虐待を苦に逃げ出したり、駆け落ちの可能性はどうですか?」家族は「そんなことはない!」というだろう。

若い娘がいて、普段からDVや虐待をしていた家族がいたとする。外部にその情報が漏れるとまずいので、なんとか探し出したい。警察に「ウチの子を探して!何も言わずにいなくなったりしない!」と言ったとする。警察は若い女性なので「DVや虐待を苦に逃げ出したり、駆け落ちの可能性はどうですか?」と聞かれて、実際DVなどをしている家族は「そんなことはない!」というだろう。まさかここで「DVしてました。」とはならないだろう。

この差が警察の立場ではわからないということなのだ。子どもであれば探してくれることもあるだろうが、成人していると自分の意思があると思われることがほとんどだ。そうなると個人情報保護の観点や個人を守るために情報を家族に言うことはできないということになる。

ましてや今回は完全なる山の中、GPSがないと探すのはほぼ不可能と言っていい。最終の携帯の発信基地の半径500mとかではかなり大掛かりな山狩りをしないと見つかることはないだろう。

結末

そして僕はその後、新聞でその事件の結末を見ることになる。

母と娘逮捕

なんと半年以上いなくなっていたはずなのに、行方不明届が出ていなかったのだ。

事件の結末としては母と娘がグルになって父を殺し、その後死体遺棄をしたという事件だった。

やっと家族のところに帰れた。家族も待っていただろうというのは全くの幻想で、Aさんは帰るところがなかったし、家族も帰りを待っていなかったのだ。

殺害理由はその当時わかっていなかったので、今も不明のままなのだが、悲しい事件解決となった。

おわりに

実は僕の父は認知症でいなくなったことがあり、警察に厄介になったことがある。かなり親切に対応していただいて、なんとか父を見つけることができた。正直見つからないことも覚悟ないといけない、そんな状況だった。その時にも思ったのだが、警察の不祥事とかあるが、多分そういう悪いことをしているひとというのは極一部でほとんどの警察官というのはいいひとなのだと僕は思う。SNSなどでも医師や歯科医師の愚痴はよく流れてくるが、そういうひとは本当に極一部でそういう極一部のひとのために真面目に働いているひとが嫌な思いをしているのだろうと僕は思うのだ。

僕も目の前の患者さんのためだけでなく、他の同じ業界のひとに迷惑をかけないように生きていきたいと思っている。