ブログ
日本看護倫理学会のレプリコンワクチンの声明について
はじめに
先日、日本看護倫理学会が新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコワクチンへの懸念についての緊急声明を出した。
要約は「一般社団法人日本看護倫理学会は、次世代型 mRNA ワクチンとして、世界で唯一日本の みで認可され、2024年10月1日から定期接種を開始するとされている自己増幅型mRNA ワクチン(レプリコンワクチン)の安全性および倫理性に関する懸念を表明します。」というものだ。
これに対し、少し疑問に思う内容があったので、それを説明したい。
基本的な僕の考え
僕は原則ワクチンはしたほうがいいと考えている。
特に一般的な子どもが受けるようなワクチンは受けた方がいいと考えているし、自分の子どもにもワクチンを打っている。
今回のレプリコワクチンを除くと問題になったのはHPVワクチンではないだろうか?これは打った方がいいと考えている。
副反応がマスコミに話題になったが、それらの症状は打っていないひとと有意差の出ない内容であり、ワクチンは安全であると結論づけられた。(副反応がないと言っているわけではない)
このワクチンを打つと子宮頸がんのほとんどを防ぐことができ、中高生あたりで男性も女性もほとんど打っているオーストラリアでは子宮頸がんはほぼ駆逐された病気になっている。性交渉で感染ることが多いので、そういったことがある前に打つというのが大事なのだ。
その同じ病気で日本では女性が年間10000人以上亡くなっている。日本は先進国の中でかなりHPVワクチン接種が進んでいない国だ。ワクチンで予防できる病気で死んだり苦しむ必要はない。
じゃあ、お前は打っているのかと言われるかもしれないが、実は僕は打っていない。男性も打った方が有効なのは知っているのだが、一度罹患したひとや特定のひととしている場合、意味がないと言われている。すでに罹患したものを治療する薬ではないからだ。僕は結婚して子どももいるので、特定の相手としか性交渉しないし、お互いかかっていたらそれまでだし、それ以上の改善は認められないからだ。
浮気をする予定になったり、離婚をする予定になったらHPVワクチンを打ってもいいかなと思っているが、今のところその予定はない。
レプリコワクチンについて
ちなみに僕自身はこのワクチンを打っている。それには明確な理由がある。僕は歯科医師をしている以上、多くの実験結果によって支えられてきた。その実験データに自分がなるタイミングがあるなら進んでなるべきだと考えているからだ。
これはあくまで僕個人の考え方で全ての医療人がそうあるべきだとは考えていない。僕は個人の価値観でそう考えているというだけだ。
新型コロナウイルスが猛威を奮っていた時は多少のリスクをとってでも新しいワクチンを打つという選択もありだと思うし、まだデータの少ないものを打ちたくないという気持ちもわかる。実際当時僕が院長を務めていた医院でも若い女性の衛生士が「一回打ったら取り出すこともできないし、子どもに影響があるとかあったら嫌なので打ちたくないです。」とのことで打たないという選択を認めた。
よく反ワクとかワクチン信者とかお互いを罵り合っているSNSを見るが、それはどちらもおかしい。僕の友人でワクチンを打っていないひともいるし、打っているひとも大勢いる。別にそれによって仲が悪くなることもないし、付き合いも変わらない。
お互いの価値観で決めたらいいことであって、それを強要されるのはどちらの方向でもおかしいと思う。
今回の緊急声明での疑問点
シェディング
この声明の理由は5つ述べられている。
1、レプリコンワクチンが開発国や先行治験国で認可されていないという問題
2、シェディングの問題
3、将来の安全性に関する問題
4、インフォームドコンセントの問題
5、接種勧奨と同調圧力の問題
以上の5つだ。ここで僕がおかしいと思っているのは2番のシェディングの問題だ。みなさんはシェディングという言葉をご存知だろうか。元々生命科学領域では細胞膜に埋め込まれた膜タンパク質から細胞外ドメインを切り離すことをいうのであって、この声明にあるような「レプリコンワクチンが「自己複製する mRNA」であるために、レプリコンワクチン自体 が接種者から非接種者に感染(シェディング)する」ようなことを指す言葉ではない。そして、ここに(Seneff & Nigh, 2021)という引用文献があるのですが、僕はこれにあたってみた。
確かに内容的には接種者から非接種者に感染する可能性があるということを書いている。しかし、シェディングについては軽く触れているだけで、孫引きまで当たると今回の内容で使われているシェディングではないことがわかる。さらに問題はそれを論文として出しているジャーナルだ。論文というのは雑誌に投稿し、査読(同じ研究分野の研究者に内容を評価されること)され、必要があれば追加の研究結果をだせと言われたり、リジェクト(排除)されたりする。
ジャーナルの中にはハゲタカジャーナルと言って大した査読もせずに、論文として認めるジャーナルがある。簡単に実績が欲しいひとなどが使うよくないジャーナルなのだが、この(Seneff & Nigh, 2021)が書かれているIJVTPRというジャーナルは正直怪しい。多分ジャーナルとして3年ほどしか歴史がないし(コロナ渦にできた?)、PubMedという世界的に有名な医学論文サイトで調べることができない、インパクトファクターという論文の信頼度を示す値(厳密には引用数などから換算されている)のポイントがない、などなかなか怪しいジャーナルになっている。つまり、そもそもシェディングの存在が怪しい(あるかもしれないし、ないかもしれない。少なくともあるとする根拠が圧倒的に弱い)。この論文を採用してシェディングを問題としているこの日本看護倫理学会というものも怪しいのでは?とおもわざるをえない。
日本看護倫理学会の結論
当学会の結論は「一般社団法人日本看護倫理学会は、レプリコンワクチンの導入に関してはさらなる研究 と長期的な安全性データの収集が必要であり、十分なインフォームドコンセントの確保と、 接種に関する勧奨と同調圧力の排除が求められると考えます。われわれは、安全かつ倫理的 に適切なワクチンの開発と普及を強く支持するものではありますが、そのいずれも担保さ れていない現段階において拙速にレプリコンワクチンを導入することには深刻な懸念を表明します」となっている。
これ自体は僕も賛成だ。一般接種にできるほど安全性は確かめられているともデータが十分だともおもわない。他のワクチンに比べて副反応は強いと思うし、当初ほどの緊急性も感じない。現状でリスクをとる必要がないと考える。焦ることはなく、長期的なデータをもう少し収集してからでもいいのかなと思うのだ。
おわりに
今回のことは本当に注意しないといけない。学会が言っているなら信頼度が高いように思ってしまう。僕の価値観での話になってしまうが、この日本看護倫理学会は正直怪しいと思っている。僕が見てわかる程度の論文の怪しさをスルーしているのはかなりいただけない。おそらく結論ありきでそれに沿った論文を引っ張ってきただけで、論文自体を精査していないのだろう。当該論文を孫引きまでしてみたが、反ワクのひとたちがいうようなシェディングの内容の文脈の論文ではなかったので、そもそもワクチンによるシェディングというものは今のところ確認されていない。
ただ、結論は賛同できる内容なので、何もかも否定したいわけではない。
みなさんがSNSなどで情報をみた時はまず、一次資料にあたらないといけないということと、それでもわからないとか気になるということがあれば、専門家に聞くというのが非常に大事だ。少なくともSNSで検索した情報を鵜呑みにはしないということと、一次資料に当たったりしていないのに拡散などをしないということが非常に大事になる。