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手術後わいせつ冤罪事件無罪確定へ

はじめに

2016年に術後に胸を舐めたとして、ある乳腺外科医(仮にA先生とする)が逮捕された。これが事実ならとんでもない事件だ。しかし、全医療関係の人間はそれはできないと思ったし、麻酔明けの幻覚で間違いないと思っていた。しかし、これは長期の裁判になる。実際事件からは9年ぐらい、裁判も8年半ぐらいしたことになる。その間にもA先生の周りでは悲惨な出来事があった。取り返しのつかない冤罪事件となったわけだが、今までの流れを説明しよう。

事件概要

2016年東京都内で全身麻酔による手術を受けた女性が術後に自室(病院の普段寝ている部屋)で担当医から胸を舐められたり、乳房をはだけさせたり自慰行為をされたと訴えたのだ。

これにはおかしい点が多々ある。まずこの原告は複数人が一部屋にいるタイプの部屋だった。4人部屋で満室だったとされている。時間が午後3時前後。つまり、カーテン1枚越しにひとが何人かいる状態で、他の患者さんの家族がいつ来るかもしれない時間帯、しかも術直後なので看護師や他の医師がいつ見にきてもおかしくない状況。この状態で、胸を舐められたり、乳房をはだけさせたり自慰行為なんてできるわけがないと思うのだ。逆にいうと原告側の女性からするとこれがあったように思ったわけだから大層怖かっただろう。それがあったなら僕も恐怖を覚える。

僕自身これはあり得ないと思ったが、一つだけ引っかかる結果がある。それは患者の乳首周辺からA先生の体液が多量に検出されたという科捜研の検査結果だ。これは体液とされているが、原告曰く胸を舐められたと言っているので、唾液としていいだろう。これは確かにおかしい。それらをめぐって裁判が繰り広げられた。

裁判

一審は無罪、控訴審は有罪、上告したが最高裁は控訴審を破棄し、差し戻し。高裁で無罪になり刑が確定した。

まず、状況的に原告の言っていることを実行するのが状況的に難しい。そして麻酔後のせん妄とするのが妥当だろうと僕も思う。ただ、上記にもあげた科捜研の結果だけは気になる。

一審で無罪になっているのになぜ控訴されたかというと、この科捜研の結果と自身で専門家ではないと言っている精神科医の証言を元にしているのだ。この精神科医は検察が連れてきた証人で、その他の専門家は皆せん妄として間違いないだろうと言っている。

そして、控訴審で有罪になるのだが、被告側が上告する。そうすると科捜研の検査結果に疑義があるということで、最高裁ではなく、高裁の判決を破棄し、高裁に差し戻しとなった。

僕が唯一気になっていた科捜研の検査結果なのだが、何ヶ所(9ヶ所?)も修正が入って書き換えられていて、その修正が修正テープだか修正液だかでされているというのだ。この手の正式な書類の書き換えは二重線にハンコというのが良くあるところだと思うのだが、このあたりも怪しい。そして、検査結果の多量についていたの部分が同じ検査官でも最大40%は差の出るものだということで、そもそもこの検査結果が証拠として怪しいとなったのだ。

正直、唯一気になっていた証拠なので、これが覆るなら医師側に非がないことは明らかだ。

そして、高裁での差し戻し判決は無罪。そして、検察側の上告断念で結審となったのだ。

誰が悪いのか?

これは単純に検察と裁判所が悪い。原告の言い掛かりなら原告が悪いかもしれないが、原告はせん妄状態で幻覚を見たのだ。原告としては実際起きたことなのだ。前述したように本当にあったならこれほど恐ろしいことはない。原告女性はそれを味わったことになる。

ただ、状況的にあり得ないことを理解すればよかったのだが、検察が動いた。検察が動けばほぼ100%有罪になる。そのためには証拠を捏造することも厭わない。実際過去に証拠を捏造した事件だってある。今回で言えば科捜研の修正に関わっていないかということと、せん妄の専門家ではない精神科医の意見を取り上げているのはナンセンスどころか悪意すら感じる。

ちなみにせん妄の専門家はというか他の精神科医は皆「せん妄だ」と言っている。この状況で「せん妄ではない可能性を否定できない」という精神科医がいるならあってみたいまである。

検察もおかしいが、これを認めた裁判所もおかしい。専門家ではないと自分で言っている精神科医の意見が専門家だと言っている医師の言葉を覆すのに使われているというのに、なぜそれを認めるのか。

僕は原告が悪いのではなく、検察と裁判所が悪いと思っている。

そして僕がもう一つ悪いと思っているのは、メディアだ。今回の事件をあたかも医師がわいせつ事件を起こしたかのように報道した。今もサムネイルの文章を見てもらうといい。「術後医師わいせつ事件」と表記しているところがある。「わいせつ冤罪事件」であって「わいせつ事件」ではない。そのほうがキャッチーなのはわかるが、これによりA先生周りがどれほど傷ついたことだろう。

この事件の罪

この事件は本当に罪深い。まず、A先生の子どもは自殺したとされている。報道によりイジメにあったのか、社会に出れなくなったのか、詳しい理由は不明だが自殺した。A先生が9年越しに無罪になったとして、子どもは帰ってこない。あまりにも大きい代償と言えるだろう。

そして、もう一つ。冤罪を晴らすのに10年近くかかるという事実を作ったことだ。警察や検察の取り調べできっというだろう。

「ここで認めて示談したほうがダメージが少ない」とか「ここで認めてしまったほうが早く済む」と言われるのだ。実際A医師は40代の10年近くを抜かれている。外科医として脂の乗っている時期に丸々キャリアを奪われたのだ。一体誰がこのA先生のキャリアを、家族を埋めることができるのだろうか。

そして、この明らかな冤罪を晴らすのに10年近くかかるという事実を残したことは今後冤罪が増える温床になるだろう。

罰は誰が受けるのか

今回の裁判は本当に無駄だったと思う。原告が被害を訴えたのはわかる。本人はせん妄があって実際起きたと思ったから訴えたのだ。しかし、警察や検察はちゃんと周りを聴取したり、状況を整理すればそれがあり得ないことぐらいわかるはずだ。検察に関しては専門家の証言もあるのに意味がわからない。

そして、これらの証拠から結論を出した裁判所もいかがなものかと思う。一審で無罪の場合、検察側からの控訴や上告はなしでいいのではないかと思うのだが、システム的にどうなのだろうか。アメリカやイギリスでは無罪の場合、国側は上訴できないようになっていたはずだが、それは日本でも採用した方がいいのではないだろうか。

そしてメディアである。上記したが「術後わいせつ事件」と今でも表記しているところがあるのに全てが集約されている。媒体が売れたり、ビュー数が上がれば何してもいいという精神が透けて見える。これは報道の自由がある以上、報道やメディア側が業界として自分でもっと厳しく取り締まらなければいけないだろう。

おわりに

冤罪が認められたのは本当によかったと思う。しかし、犠牲はあまりにも大き過ぎた。正直僕がA先生ならここまで戦えただろうか。昨今医療関係の訴訟が増えている。それはダメ元でしてワンチャン勝てれば大金をせしめることができるからだ。

そのリスクがあるのに保険点数は上がらない。もうこれは医療の崩壊を意味すると僕は思う。ずっと崩壊に進んでいると思っていたが、最近の進み方はとんでもないスピードに感じる。

日本の保険診療は崩壊すると思っているが、財務省や厚生労働省が悪いと思っていたが、司法もだいぶ加担していると言っていいだろう。

A先生の無罪確定をお祝いしつつ、子どものご冥福もお祈りさせていただきたいと思う。