ブログ
医師を5人論破したという芸能人の話で思うこと
はじめに
医療にまつわるSNSの情報を僕はよく見ている。正直自分に関していうと目の前の患者さんに向き合うことが大事なのであって、いるかいないかもわからないSNS上にいるひとのお悩みなんかは僕には関係がない。
そういう意味では冷めた目で見ているのだが、世の中のひとはそういった情報を目にしていくる。以前にも書いた「インプラントが電波を受信する」とか、「フッ素は子どものIQを下げるのか」とかもそうだ。
正直、どちらの話も日本の今の環境では関係ないなと思っているが、その理由を科学的根拠を持って否定しなければならない。ただただ大丈夫でも良いのだが、それだけでは納得いかないこともあるだろう。僕は一応全ての話を一回論文ベースで調べるようにしている。
今回はそういった類の話ではないのだが、少し思うことがあるので、書いてみた。
医師を5人論破したとは?
某芸能人がテレビで心療内科を5人論破したという内容だ。
これは実際論破したかどうかはわからないが、基本的に医師は患者さんを論破するしないというところでは診ていない。患者本人が論破したと思って満足して去っていくなら心療内科的には問題ではないだろう。番組では口答えをしてしまうという内容になっていたが、それで何軒も回るのは保険診療的にはよくないことだとは思う。
歯科では?
心療内科のような性質のところではないので、歯科であまり患者さんに論破されたみたいなことは今までない。もちろんこちらとしても患者さんを論破したんだみたいなこともない。
しかし、歯科に限らず全科共通して困る患者さんというのはいる。それは「話を聞かない患者さん」だ。
自己診断してくるひとも困るのだが、こちらの説明を聞いてくれて理解してくれる、最低でも理解しようとしてくれている場合はいい。自己診断してくるひとでよくあるのは自分の診断が正しくて医師や歯科医師の診断が間違いとする場合だ。医療という特殊な職業で専門家を上回る知識がある一般人はほぼいないと言って良い。しかし、そういったひとは多くいるし、SNSでは散見する。
僕が出会った症例
50代ぐらいの女性だっただろうか。以前の歯科医院の治療を不満に思ってこられた方だった。詳しくは言えないが正直注意しないといけないひとだというのは見ただけで分かった。最初からその状態だったので僕は細心の注意を払って対応した。
ただ、あるタイミングで「今後の治療方針が納得できない」と言ってきた。彼女が示した治療をAとしよう。これは教科書的というか一般的にはその治療に進むのが正しいという方法だ。つまり悪くない。しかし、彼女は放置されていた時間が長くかなり特殊な状態だった。僕は理由を説明してBという治療法を提案した。これが納得いかなかったようだ。
診療に関することで詳しく言えないので例え話をしよう。
物理的に不可能
ワクチンの反対派のいたとする。僕はワクチンは打ちたければ打ち、打ちたくなければ打たなくていいと思っている派だ(僕自身は打つ派)。ワクチン反対派の中にワクチンの中にICチップが入っているというひとがいる。確かに注射器で小さいICチップを身体に入れるという技術はある。しかし、その注射器はかなり特殊で大きいものだ。ICチップを小さくする技術に限界があるからだ。とてもワクチンを打つ注射器でできることではない。
しかし、陰謀論者はそう言ったことを平気で言う。僕はワクチンに反対であることを批判しているのではない。物理的に不可能なことを自分の思った答えに行くために無視することを非難している。
これに似たようなことが起きたのだ。特殊な例であったため物理的にAという治療法が取れないので代替案としてBというものを示した。Aという治療法をすれば間違いなく痛みが出るという症例だった。
その後どうなったか
僕は物理的に不可能であることを見てわかるように示したのだが、彼女は納得がいかないという。結局どうしたかというと、「必ず痛みが出ることになるが、痛みが出ても文句を言わない」という条件の元、治療法Aをすることになった。やらないとわからないだろうと思ったからだ。
結果
治療法Aをした結果、当然痛みが出た。そして彼女は言う「おかしい!」。
僕も言う。「治療する前から説明したでしょう。痛みが出ると」。痛みが出る、文句言わないなどの条件はまるで無視され、文句が止まらない。自分の思っている答えが絶対正しいと考えていて違うことが受け入れられないからだ。
その後、調整に調整を重ねて治療法Bのようになってとりあえずの痛みを消失さして帰した。僕からすると本当に無駄なことをした形になった。
そして、Googleマップの評価に星1を付けられて「ヤブだ」と言われている。
僕の考え
一度触ってしまった以上自分にも責任があると考えているので、腹に据え兼ねるものはあるが、この結果は受け入れなくてはならない。
この経験があるので、僕は自分の説明や治療法が理解できない、納得できない場合は治療を行わない。他の医院に行っていただく。
説明が悪いと言うひともいると思うが、僕は見てわかるように示したつもりだ。例えるなら半径2cm深さ3cmの円柱型の穴に半径3cm高さ5cmの円柱を入れろみたいなことだ。物理的に不可能なことを納得できないと言われてもそれ以上説明できない。
頭が悪いということを批判しているのではない。僕も頭が悪い。だから患者さんから質問されたら調べることもあるし、今までも患者さんの話や症例から新しい治療法や知識に繋がったことは多々ある。自分が間違っているかも、自分が知らないことがあるかもという可能性などを常に考えて相手の話を聞いているかという話だ。
患者さんと医師側双方の信頼関係があって初めて医療行為というものができる。患者さんが僕を信頼できない、納得できない、説明が理解できないなら当院で治療すべきではない。当院は僕しか歯科医師がいないからだ。
僕は僕の話を聞かないひとの診療を拒否する。
応召義務違反ではないかというひとがいるかもしれないが、応召義務は診療を断ってはいけないという法律ではない。正当な理由なく断ってはいけないという法律だ。ちなみに信頼関係を築けないというのは正当な理由になる。
付け加えると応召義務は患者と医師の間に交わされる私法ではなく、国と医師の間で交わされる公法なので、患者さん側の立場で「応召義務違反だ!訴える!」ということはできない。
おわりに
僕の診療を受けたひとで説明短いなと思うひとは少ないと思う。むしろ、説明長いとかクドイとか思われているかもしれない。それはそれで僕が良くないのだが、、、
当院では一人一人の患者さんに対してかなりしっかり時間をとっている方だと思う。単純に仕事と考えればそれは非常に効率の悪いことだ。
保険診療ではその方法をとり続けることが難しくなってきている。4月から大きく方針転換をしないといけなくなるだろう。