ブログ

光学印象が取れるようになりました✨

はじめに

光学印象とは何かと言いますと、写真をいっぱい撮ってデジタルで模型を作成することです。今まではアルジネートやシリコーンといった材料を使って型を取っていました。今までしたことあるひとはわかると思うのですが、口の中に粘土のようなものを入れて、固まるまで5分ほど維持し、そして取るということをしてきた。嘔吐反射のあるひとはこれがきつくて涙したひともいるだろう。光学印象の場合は小型のカメラを口の中に入れて上下の歯の型をとり、咬み合わせの型を撮っても5分とかからない。それらの良い点悪い点について説明していこうと思う。

それぞれの印象(型取り)の特徴

従来の印象

まずは基本的に保険診療でよく使われるアルジネート印象について説明していこう。FMCと言われる金属の被せ物が出来上がるまでの流れを説明する。

アルジネートというのは海藻を原料に作られている材料で、保険診療で使われている材料になる。アルジネートの粉があり、それと決められた量の水と練和し、それをトレーに盛って患者さんの口の中に運んでいた。この練和には技術が必要でうまい衛生士さんなんかは表面が綺麗な感じで練和して印象の精度もやるひとによって違いがあったのだ。みんなが同じ精度でできるようにこのあたりはソフトクリームみたいに出てくる機械や、カップの中に入れて混ぜてくれる機械なんかを使っている医院もあった。ちなみに以前の当院はカップに入れて混ぜてくれる機械を使っていた。(現在も使っているが理由は後述する)

さらに気温や湿度、放置されている時間などで膨張や収縮を繰り返すので、厳密にいうと変形が起きている。その後この取った型に石膏を流し込んで型を起こしてくるのだが、この石膏も混水比や混ざり加減で変形するし、膨張率や収縮率も変わってくる。これらの誤差を少なくするために当院では真空練和機を使っているが、それでも誤差が0になることはない。

ここまでは歯科医師が歯科医院で行っていることになる。この模型を技工所に送り、歯科技工士さんが被せ物を作ってくれる。ワックスアップと言って、専用のワックスで被せ物の形を作る。それを元の鋳造する。鋳造とは今回で言えばワックスで作った被せ物の形をしたものを埋没材というもので周りを固めてしまい、ゆっくりと熱する。そうするとワックスがなくなり、そこに金属を流し込むことでワックスで作った形のものが金属になるという仕組みだ。ここから調整をして研磨をしていくという流れになり、出来上がったものが歯科医院に帰ってきてみなさんの口の中にセットされる。

ここまでに印象材(今回の説明ではアルジネート)、石膏、ワックス、金属、これらの材料の膨張や収縮の誤差と闘いながらみなさんの口の中に入る被せ物は作られてきた。その誤差はほんの0.何mmの世界なのだ。数百μm以内の誤差だ。しかし、みなさん口の中に髪の毛が入っただけで違和感を感じるだろう。髪の毛の太さは日本人の平均は80μmと言われている。咬み合わせに関しても200μmあれば誤差を感じると言われている。この誤差があるから被せ物にはチェアーサイド(歯科医師が患者さんに直接という意味)での調整がつきものだった。

これだけの誤差がありながら、口腔内で使えるだけの精度を出すことがいかに大変かお分かりいただけただろうか?歯科医師も職人技のような工程をし、何とか歯科技工士に模型を繋ぎ、歯科技工士もその模型に対し職人技を施し、歯科医師に返す。そのバトンが繋がれた先に補綴物(歯を失った後に入れるもの)があるのだ。

光学印象

これが光学印象になると、患者さんを直接写真に撮る。何千枚も撮ることによって立体の模型を作り出す。その誤差は最大で20μmほどだ。型を取ってそこに石膏を流してということがないので膨張や収縮の誤差がない。そのままデジタルデータとして技工所に送られる。今までもCAD/CAM冠というデジタルで作られている被せ物はあったのだが、それは石膏模型をデジタルに読み込んでいた。この段階で数百μmの誤差が出ているので、精度は光学印象の方がいいことは自明である。

そこから被せ物を作っていくわけだが、CAMでつまりデジタル上でデザインしていく。そして、デザインしたものをブロックから削り出すという作業になる。今はまだ保険では光学印象が使えないが、前例で出したFMCならワックスを削り出してそれを鋳造する。金属や埋没材の誤差が計算できるならCAMのデザインや設定で計算できるし、チタン冠ならチタンブロックから削り出したりもする。そうすれば鋳造で発生する誤差もない。これらが精度が上がる理由だ。

当院では技工士と綿密に打ち合わせをし、随時セメントスペースや患者さんごとの顔貌やクセなどから微調整の細かい注文を出している。

被せ物一つ一つに歯科医師や歯科技工士の魂が込められていることを知っておいてほしい。そうじゃないというひともいるかもしれないが、少なくとも当院のものは常に全力で作っている。

従来の印象はダメなのか?

では、従来の印象はダメなのかというとそういうわけでもない。例えば、模型を起こさないとできないタイプの被せ物もある。その場合は、デジタルの場合であれば、デジタルデータから3Dプリンターを使って作ったりもする。それが二度手間になるので、最初から模型を作るということもなくはない。そして何より、義歯(入れ歯)の場合は従来の印象がいい。

なぜかというと粘膜があるからだ。粘膜はひとによって、同じ人でも場所によって分厚さや固さが違ってくる。義歯が入った時の沈み込みの感じが場所によって違うのだ。つまり、圧力をかけた(義歯でものを噛んでいるに相当する)状態で印象を取りたい時があるのだが、これは光学印象ではできない。

つまり使い方の問題でそれぞれの特性をしっかり理解しているかどうかが大事ということになる。

光学印象は義歯に使えない⁉️

光学印象が義歯に使えないかというとこれまたそうでもない。どういった使い方をするかというと、現在使っている義歯のコピーを作るのだ。これをコピーデンチャー(デンチャーは義歯という意味)という。僕は義歯を作るときに必ず最初は保険で作ることをオススメする。自費で作ったものの方が綺麗で違和感も少ないし見た目も綺麗だ。しかし、なぜ保険で作ることを勧めるかというとまず初めての場合、義歯が使えないひとがいるからだ。これは嘔吐反射と言ってオエとなりやすかったり、手が不自由だったり可能性は様々だ。使えもしないものにお金をかけても仕方がないのでお試しという意味でもなるべく安くするべきだと考えている。あとは保険の義歯で満足するひとが一定数いることも理由だ。自費の義歯を考えているひとでも保険の義歯を入れて満足して「これでいいわ!」と帰るひとが今までもたくさんいた。まぁ自分が一生懸命作っているので、患者さんが満足してくれれば一番なのだが、僕としては費用をかけた義歯を作ってもらえたらもっといいものを作る自信があるのだが、そこで終わることもある。これらの理由で保険で義歯を作ることを勧めることが多い。

ここで咬み合わせや見た目などを調整して、ゴールを決めてから自費の義歯を作りたいのだ。咬み合わせは教科書的なものはあるのだが、やはり個人の個性が出る部分も多い。ここを実際使ってもらって患者さん本人も歯科医師もこのゴールがいいよねと共通認識を持って進みたいのだ。

そして、保険で納得のいく咬み合わせや見た目の義歯ができたらそれのコピーデンチャーを作る。それを使って、患者さんの歯肉(歯茎)などの型を取ったり、咬み合わせを決めて模型に起こすことができるのだ。実際使っている義歯と同じものですることによって粘膜の力のかかり加減とかも再現できているし、歯科技工士が模型しか見れない中作業をするのだが、その模型の精度が断然上がるのだ。

その模型で作られる義歯がどれほどのものか、現在義歯(特に総義歯)を使っているひとは体験していただきたい。

この手間は保険診療で行うことはできない。

おわりに

当院ではこれらのこだわりを持って補綴物を製作している。出入りできる技工所も限っているし、いい仕事をする技工所はそれなりに値段も高い。保険診療では国が診療報酬を決めているので、安い技工所を使った方が儲けが出る。しかし、当院ではそうはしていない。

最初医療法人清澄会こう歯科クリニックを開院したときに営業にきた技工所を色々見たのだが、ある技工所は出禁にした。技工にかける情熱が全然ないし、新人のミスに対し、上司が責任を取らず言い訳ばかりだったのだ。新人のミスは仕方ない。ある程度はこちらも看過しよう。しかし、それに対し責任を取らないのはいかがなものだろうか?それも無理難題ではなく、できる内容でしか僕は要求をしていない。それに対し謝るばかりで何もしない。できることがあるのに何もしないのだ。これは看過できない。しかし、技工料は安い。

あなたはこの技工所を使うだろうか?儲けだけ考えれば文句を言いながらも使った方が医院としては儲けがいい。ただ、患者さんの立場で考えるとこの技工所の作った補綴物を入れられたらたまったものでは無い。しかし、患者さんは全く認識できないし、わからないのだからそうしてもわからない。こういったことがあるので、歯科医院はよく選んだ方がいい。

保険診療に関して同じ金額だが同じレベルのものが入れられているわけではない。自費診療に関しては値段も違えば、技術や設備も医院ごとにかなり変わってくる。高い買い物になり、自分の生活にも密接に関わるものなので患者さんにはよく吟味して歯科医院を選んでいただきたい。