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保険診療と自費診療

はじめに

先日、家の車が故障して修理になった。新車から8年ぐらい乗ったか?それまでも車検などもあったし、ブレーキパッドやパーツの交換もしてきた。今回の修理は大きいパーツを二つも交換になり、諸々で約30万円だという。

「高ッ❗️❗️❗️」

って思ったのだが、歯科における自費診療は値段だけ見たら高いように思うが、コスパ的に考えて本当に高いのだろうか?

保険診療

保険診療とは国が定めた材料、定めた手法で治療しなければならない。そして、その行った行為に対して点数がつけられており、その点数に応じて1点10円もらえる計算になる。3割負担と言われているひとは窓口で1点に対して3円払っていると思ってもらったらいい。

最近はかなり白い材料で治療ができるようになった。前から7番目の歯まで白い材料でできるようになってきて、TikTokの動画である歯科医師が言っていたのは、「すべての歯を保険で白くできる。」と言っていた。まぁわかりやすく説明するためだとは思うが、そんなことはない。一番奥の歯を白い材料で治療できるには条件があるし、他にも白くできるけど、選ばない方がいいこともある。

例えば、インレーという一部分削って形を整えて型を取り、被せ物を作るものがある。金属で作るものと、CAD/CAMインレーというプラスチックのブロックから削り出すタイプのものがある。CAD/CAMインレーだと白くできるわけだが、なんでもかんでもいいわけではない。金属の方が丈夫なので、CAD/CAMインレーを使う場合、自分の歯を削る量が増えるのだ。日本人は歯が小さい人も多いので、削りすぎると神経が出ることがある。こうなると基本的には抜髄と言って神経を取らないといけなくなることがほとんどだ。神経をとるとその歯の寿命が短くなると言われているので、できれば取りたくない。しかし、痛みが出るなら取らざるおえないということになる。

そのほかにも奥歯に白い被せ物をする場合、奥歯が全部残っていることが条件だったりする。どこかの奥歯がなかったら使えなかったりするのだ。しかも今回7番目の歯を白くできるPEEK冠というものがあるのだが、実験を見ると正直あんまり使いたくないなと思っている。一応、国が認可しているのだが、あくまで個人的な意見なので使っている歯科医院や歯科医師を批判するものではない。

これらの理由から白い材料は使えたり使えなかったりする。僕自身なるべく金属は使いたくないと思っているので、白い材料を使うことが多いのだが、あくまで症例を選ぶということは知っておいていただきたい。

自費診療

保険診療と自費診療の違い

保険診療でも白い材料で治療できるならそれでいいじゃないかと思うひとがいるかもしれない。むしろ自費診療と何が違うのかというと、材料の性質が違う。それも明確に違う。プラスチック系(保険)の材料とセラミック系(自費)の材料の一番の違いは汚れのつきやすさだ。セラミック系の材料は本当にプラーク(歯垢)や、ステイン(着色)がつかない。特に年単位で使用するとその差は歴然だ。

さらに見た目が美しい。最近では保険で金属の使わないタイプの白い被せ物もできてきた。しかし、透明感や自然な見た目のようなものはセラミック系の材料には遠く及ばない。ましてや、金属を土台に白いプラスチックを貼るタイプの前装冠というタイプだと光が通らない。天然の歯ではないということはわかってしまう。

自費診療の進化

さらに当院では2月から光学印象が可能になり、適合も上がる。つまり外れにくくなるのだ(今までも今のところ自費の被せ物が外れたり破損したりはないはずだが)。当院では自費診療の被せ物を作ってもらう業者を限っており、昔から付き合いのある技工所の歯科技工士に限っている。歯科技工士は模型と指示書からしか情報を得られないのだが、もう少しパーソナルな好みなども僕が患者さんから聞き出し、形や色や咬合(咬み合わせ)などを指定している。歯科技工士というテクニシャンと綿密な連携をとることによって、よりよいものを患者さんに提供しようと努力している。実際の装着感や患者さんの満足度、調整の度合いなどは随時フィードバックして次は今回よりいいものを作ろうと日々努力している。

保険診療の欠点

保険診療は制度上に大きな欠点がある。大多数を相手にする上で仕方のない部分があり、万人が納得できる精度など存在しないのだが、保険診療上の問題を挙げていこうと思う。

材料の限定

保険診療は使える材料が限られている。指定されたものしか使えない。当然だが、保険制度にドンドン新しい材料が入ってくることはない。歯科は医科よりも動きが遅く、新しい材料がドンドン入ってくるということはない。使われている金属の価格が上がっているのに保険点数が上がってこないので逆鞘になって、治療したらしただけ損をするみたいなこともあった。それぐらいスピード感は遅い。

使える材料の関係で使える色も限られる。色味でいうとこれかこれかこれぐらいの感じだ。白ければいいぐらいならいいが、詰めたかどうかわからないぐらいには難しかったりする。

状況によっては金属を使わなければならない時がある。自費診療でもゴールドなどの金属を使うことがなくはないのだが、基本的には使わない。口腔内という100度近いお湯から-20度ぐらいのアイス、場合によっては酸の攻撃を受けたりもする過酷な環境で、金属は熱で膨張したり収縮することや、酸性化において電気を発生したりする。こういったものが口腔内にあることはいいのか?という疑問があるのだ。

特に金属の場合はアレルギーのリスクもある。それらを考えると使わなくていいなら極力使いたくないと思うのだ。

ちなみに僕は自分の妻と結婚する際、妻の口腔内にある銀歯を全部外してセラミックに変えた。自分の妻に銀歯があるのは耐えられなかったからだ。

点数制度

最初に説明したように行った診療行為に対して点数が決められている。つまり、治療行為をしたらしただけお金がもらえるということになる。実際患者さんは口の中で何をされているかわからないことが多い。なるべく理解できるように説明するが説明をしても理解しにくいこともあるだろう。実際何をされているかわからない。この結果どういうことが起きるかというと、余分な治療をした方が歯科医院が儲かるということが起きてしまうのだ。

さっきから少し話題に出ているが、インレーという一部分の歯を削り、型を取り、一部分の被せ物をするという治療法がある。これより、完全に一周削ってクラウンという全体的な被せ物の方が点数が高い。つまり、保険診療で歯科医院や歯科医師が稼ごうと思えばドンドン歯を削った方がいいということだ。実際、具体的な書籍名は避けるが、歯科医師向けに保険診療で稼ぐ方法みたいな本があり、それには「ドンドン削れ。」、「インレーはするな。」見たいなことが書いてある。そのような本が売られているというのが現実だ。

実際それを間に受けている歯科医師がどれだけいるかは不明だが、僕はこのひとたちを否定もしない。

歯科診療を生業にしている以上、その仕事をしてご飯を食べていかなければならない。それで食べていくために必要な方法ということだ。ものを売るような商売をしていて、いっぱいものを売って怒られるなんてことはないはずだ。

しかし、医療はそういうわけにはいかない。

医療という仕事は非常に特殊な仕事だ。厳しい勉強や試験を受けてそれをクリアしたひとがいいことの方が多いと判断した場合、針で刺したり、メスで切るような傷害行為が許されるというものだ。特に歯科に関しては難しくて、削った歯は回復しない。皮膚を切る行為や針を刺すだけなら完全に回復するのだが、歯を削るとプラスチックや金属でそれっぽい形に修復するだけなのだ。

僕は患者さんにいつも言うことがある。「最近はインプラントとかいいものができている。僕自身歯を失った時の第一選択だと思っている。しかし、機能などを考えて自分の歯は超えることはない。治療せずに済むならそれが一番だ。」と。

いい歯科医師ほど損をする

僕自身こんなことがあった。ある患者さんが「歯がしみる」というのを主訴に来院した。歯自体は綺麗だが、少し気になるポイントがあった。診療室に入る時に少し足をひきづっていたのだ。一般的に「歯がしみる」ということに関して、治療をするならば「しみどめの薬を塗る」、「咬み合わせの調整をする」、「ナイトガードなどのマウスピースを作る」などが考えられる。

僕はもろもろの既往歴とは別にある質問をした。「しみることが多いのは朝ですか?それとも夕方とか夜ですか?」患者さんは「夕方とか夜が多いです。」と答えた。さらに質問を続ける。「股関節とか膝を痛めていませんか?もしくはスポーツをしていて過去に大きくケガをしたりしていませんか?」。患者さんが答える。「めっちゃ痛めています。〇〇と△△と、、、」

これらの結果から僕は患者さんに「日中注意して食いしばらないように。歯と歯が当たっていたらそれはすでに噛み過ぎです。」といった。

結局話だけして僕は治療行為を何もしなかったわけだが、患者さんは後日「痛みがなくなった。」と言う。

お分かりだろうか?僕は患者さんから話を聞いて指示をしただけなのだ。当然そんなものに保険点数は存在しない。つまり僕はこの患者さんに対して請求する治療行為がないのだ。

これを何も考えずに「しみどめの薬を塗っときますねー」とか、「咬み合わせ調整しときますねー」とか、「ナイトガード作りましょう」とか言って処置すればもっとお金がもらえるのだ。今回の例で言えば「日中このマウスピースをつけてください。」と言ってマウスピースを作れば痛みは消えたとは思う。それに対して患者さんはわからないし、痛みは消えているしで特に問題はないだろう。しかし、本質を見るとしなくていい治療ということになるだろう。

しなくていい治療をしないは儲からない

この現状を見てみなさんはどうだろうか?歯科医師は皆高い倫理観を持って患者さんに向き合っているのでしょうか。実際、僕の周りのよく知る先生は皆無駄な治療をしない。しかし、そうでない歯科医師が散見されるのもまた事実だ。チェアーを効率よく回す話ばかりをしている先生もいる。何度も言うが僕はこの効率の話ばかりする先生を悪いとは思っていない。なぜなら保険診療がそういうデザインになっているからだ。僕はそういう治療をしないというだけに過ぎない。

当院の方針

当院では基本的に最低30分枠で治療の枠を取っている。定期的に歯の掃除に来ていただいている方には1時間、場合によっては一時間半という枠を取っている。ただ治療をするだけならそこまで時間はいらないかもしれない。

僕は患者さんと話がしたいのだ。

一般的にはどうでもいい話の中に原因が隠れていたり、ただ歯科医院で診ているだけではわからないことというのがあるのだ。もし、そんなのいらないという方は「そういうのはいらない。」と言っていただいていい。

保険診療を止める

このように僕の診療方針と保険診療が合わないので、近い将来保険診療をやめて自費診療のみにしようと考えている。診療方針が保険診療と合わないだけではなく、国が僕に優しくないというのも理由なのだが、その話はまた今度。

ただ、今まで診てきたひとを見れなくなるのは寂しいのでそれまでに来ていただいていた方には保険診療を続けるつもりでいる。

もし、僕に保険診療をしてほしいという方がおられたら今のうちに来院していただけると可能です。

医療のコスパ

歯科医療に関していうと、コスパは最強と言えるだろう。そもそも歯科治療をせずに済む生活が最強なのだが、仮に歯が1本虫歯でクラウンと言われるタイプの完全に被せるタイプの治療をしたとする。計算しやすいようにおよそ10万円として、歯は絶対に毎日めっちゃ使うのだ。食べ物を食べるため(咀嚼)だけではない。喋るため(構音)、見た目(審美)、姿勢の維持(バランス)などにも使われる。絶対に毎日かなりの時間使用するものなのだ。

例えば、車や時計といったもので非常に高いものがあったとしよう。毎日歯より使うなんてことがあるだろうか?おそらくないと思う。歯と同じぐらい使うものと言って僕が思いつくのは冷蔵庫ぐらいかとさえ思う(考えたら多分もうちょっとある)。

当院で自費治療は基本5年保証をしている。正直今まで自費の被せ物が取れたり破損したりしたことがないのでとりあえず一生物になるようには心がけている。ここでは5年と考えよう。

10万円を5年間、毎日めちゃくちゃ使うと考えて、およそ54.8円/日だ。月を30日と考えたら1644円/月ということになる。みなさんサブスクにいくら注ぎ込んでいるだろうか?そのサブスクは毎日そんなに使い込むだろうか?実際は5年以上使うわけだからここからドンドン安くなると考えてもらっていい。これでQOLがかなり上がるのだからかなりいい買い物だと僕は思う。

おわりに

僕は田舎に住んでいるので車は絶対に必要なのだが、乗らない日もあるし、乗らなくても駐車場代はかかってくる。維持費にもお金がかかるし、当然メンテナンスにもお金がかかる。正直お金をかけるなら車より歯のほうがいい買い物だと僕は思う。ただ、歯に関しては自分の歯でずっといければお金をかけなくてもいいし、それだけ価値があることだということをわかってほしい。

僕は保険診療をデキのいい仮歯ぐらいに思っている。本当にちゃんと治療をするなら自費診療の材料にすべきだと考えているからだ。

そんな僕でも保険診療を勧める時がある。例えば、もう状態の悪い歯に被せ物をするときだ。いくら被せ物にいいものを使っても土台がダメになったら使えなくなってしまうからだ。

基本的には自分の歯で生きられるということが一番なのだが、もし治療が必要な際はいい治療を受けてほしいと思う。

自分の歯はそれほど価値があるのだ。