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チタンインプラントが電磁波を受信する⁉️
はじめに
いつもネットでどのような歯科に関する情報が蔓延っているのか見ているんですが、また何やら見つけてしまいました。「チタンインプラントはアンテナになって電磁波を受ける」とか「チタンインプラントはアンテナの役割を果たして電磁波を集積する」とか「電磁波の集積によって金属アレルギーが助長される」みたいなことが書かれていた。「ホンマかいな」と思って調べたところHPに堂々とそう書いてジルコニアインプラントを推している歯科医院もあった。
僕が調べた限りではジルコニアインプラントは日本では承認されていなかったと思う(2025年1月現在)が、海外では承認があり、おかしいものではないようだ。
どうあれ、当院のインプラントはチタンを使用しているものになるので、チタンインプラントが人体に害が大きいなら止めることも考えなくてはいけません。ということで、調べてみました。
チタンインプラントはアンテナになるのか?
結論から言うとチタンはアンテナになる。これには電磁波についての理解が必要になるので、電磁波というものがなんなのかから説明しようと思う。
電磁波とは
「電波と磁場の変化を伝搬する波動のこと」をいいます。ちなみに特定の周波数を人間が見えるようになっていて可視光線と言ったり、電離放射線という物を使ってX線と言って医療で使ったり、γ線と言ってがんの治療に使ったりする。周波数の違いで携帯電話やGPS、電子レンジなんかが使っているのも電磁波の一種ということになる。
アンテナとは
「電気エネルギーを電磁波の形で空間に放出したり、あるいは空間から電磁波を取り入れるためのエネルギー変換器であり、交換能力が良くなるように設計された電気回路である」とされている。
アンテナは材質が金属であればなんでも受信することが可能だ。長さや径によって受信しやすいものは変わるが、受信できないということはない。つまり、チタンインプラントはアンテナになり得る。これは本当のようです。
アンテナになるなら電磁波を集積する?!
これは明確にNOと言えます。まず、電磁波は文字通り波なのでエネルギーとして留めることができません。そのまま通り過ぎるか別のエネルギーの形として残すしかありません。電磁波であれば基本的には電気か磁気になるわけですが、電気であればリチウム電池が必要ですし、磁気であれば磁石ないし磁性体が必要だ。つまり、非磁性体であるチタンでは電気も磁気も残ることはなく肉体に放出される。極々微細なもので神経が感じることもないぐらいのものだと考える。なぜなら電磁波は現代社会では避けることができないぐらいビュンビュン飛んでいるし、電波として使われている電磁波より、可視光線や太陽光の方がエネルギーが大きいのに電波だけやたら感じるなんてことはないのだ。
しかし、インプラントの材質の中にコバルトクロム合金というものがある。これは磁性体になるので、磁力を溜めることは可能だ。流石に電磁波の影響で磁石になったりはしないと思うが、MRIぐらい強い磁力の中に入れば磁石になる可能性もあると思うし、少なくともめちゃくちゃ光ってMRI画像が醜くなることは請け合いだ。歯科のインプラントは頭部に打つことになるので、肝心なところが見えなくなる可能性もある。化学的に非常に安定しているし、物理的な強度も強いからいいというひともいるのだが、磁性体であることに引っかかっているので、当院ではコバルトクロム合金のインプラントは使用していない。
金属アレルギーが助長される?
これは正直ないと思う。まずなぜ電磁波を受けたチタンがあると金属アレルギーになるのかがわからない。いろいろなHPを見ると電磁波が集積されて電気分解が起きてみたいなことが書いているのだが、チタンはかなり強固な不動態の酸化皮膜ができて電気分解できない。チタンを電気分解しようと思うと濃度が80%の硫酸がいるほどだ。おそらく身体の中でチタンイオンが流出ということはほぼないだろう。
ただ、一応数は少ないがチタンアレルギーというものは存在して、チタンがそもそもダメなひとというのはいる。そういったひとにチタンを避けるというのはいいことと言えるだろう。
僕自身口腔内に金属があること自体は好きではない。できれば入れたくないし、患者さんが金銭的にも時間的にも許してくれるなら口腔内から金属を消したいと思っている派だ。妻と結婚するときに銀歯を全部セラミックにしたほどだ。
一応論文を調べてみたが、僕が調べた範囲に「インプラントが電磁波を受信する」とか「インプラントが電波を集積する」とか「インプラントが受信した電磁波で金属アレルギーが助長される」というものはなかった。
おわりに
僕の考えとしてはチタンにアレルギーがあるということでなければチタンインプラントで問題ないと考えている。ただ、インプラントの他に人工関節などもチタンが使われるのだが、インプラントや人工関節を入れたひとはチタンアレルギーになりやすくなるというデータはある(確率が少し上がる)。チタンに対する感作が多いから当然ではあるのだが。
ちなみに僕が見た論文ではチタンアレルギーだけ持っているというひとはいないとされていた。他にも金属アレルギーを持っていて、チタンもアレルギーがあるというひとがいるというだけだそうだ。そして、チタン合金にアレルギーはあってもチタン単体にアレルギーがあるひとは非常に少なかった。
当院で取り扱う予定はないがジルコニアインプラント自体は悪いものだとは思わない。ただ、海外から取り寄せになったりするので、1本の単価が高くなってしまう。いいインプラントと言えなくはないが、そのインプラントを売るために「電磁波が集積する」などの嘘情報で不安を煽るのは良くないと思う。
メタルフリー自体は僕もいいと思っているのだが、嘘情報で不安を煽るようなことはしたくない。嘘情報なのに確認せずに「そう言われている」みたいな感じでどこからか聞いた話として引用している有名な先生もいた。医療従事者は科学者であるべきだと考えているので、不確かな情報を広めるのは本当に良くない。
ただ、僕の勉強不足や調査不足の可能性もあるので、もし「イヤイヤちゃんと根拠となる論文ありますよ」という先生がおられたら是非ご教授いただきたい。