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世界一に触れた✋

はじめに

皆さんは推手という競技をご存知でしょうか。ざっくり言うと手押し相撲を競技にしたようなもので、中国武術業界では行われてきた競技です。太極拳といえば皆さんは公園でしているようなゆっくりと動く体操みたいなものをイメージするかもしれないが、それの理論が大いに詰まった競技になる。

しかし、正しく理解しているひとは少なく、今回教えを請うた先生曰く、「正しくできているひとはほとんどいない」とのことだった。実際先生の動きを僕が見る限りかなり根底のところで動きが違う気がした。

今回教えていただいた先生はその競技の世界一だそうで、台湾が本場なのだが、その本場で優勝したひとだ。さて世界一のレベルとはどの程度のものだろうか。

世界一の実力

推手の上手いひとに技をかけられると、本当に操り人形のように操られてしまう。正直「やらせ」に見えるぐらいだ。僕は177cm,88kgほどあるので、日本人の体格として決して小さくない。先生も同じぐらいの体格だが、僕は思い切りぶつかった。そうすると不思議と力が消えてフワっと崩されてしまう。この崩されてしまうと言うのはおっとっととバランスを崩す感じだ。最初に説明したようにこの競技は手押し相撲のような競技なので足が動いてしまうと負けになる。今回はそんなもの関係なく僕がぶつかったのにフワッと力が消えてしまった。

これは何回も挑戦させてもらったが、本当に何もできなかった。思い切りぶつかってもフワっと崩され、触ると崩されるので避けたら押し込まれ、これは開始前から仕掛けないとといきなり突っかかっても返され、もはや反則しかないのでは?と思ってしても反則すらも返されてしまった。

正直できることは全てしたが本当に何もできなかったし、何が凄いって僕はハァハァ言っているのに先生は息一つ切らしていない。大きい僕がぶつかってきているのに本当に力みがないのだ。

不思議な力

こういった動画を見ると「やらせ」だと言われることがある。これを「気」の力でとか、「不思議な力」としていたらダメなのだ。この先生のすごいところは全て理論をしっかり教えてくれるのだ。僕も得意不得意はあるものの1日で少しできるようになった。僕だけではない一緒に習っていたひともだ。

これは理論が正しいことを示している。じゃあ、「みんなできるようになるんだから先生は必要なくなるのでは?」とか「先生を超える日が来るのでは?」と思うかもしれない。僕が触れてから色々考えてできることが一瞬ででき、多くの手札から最適解を見出すスピードと実現力が桁違いなのだ。

これが本当の技術であり、練度精度の高さと言えるだろう。

なぜ推手に行ったのか

お前の趣味だろうと言われると否定することもないのだが、この競技にはヒトという動物の二足歩行の難しさや理解が多く詰まっている。二足歩行や二足で立つという非常に難しい行為を無意識にしていて、無意識にしているが故にその無意識を崩されるとこけてしまうのだ。

言うなればマジックと同じだ。

こっちはタネを知っていて相手はタネを知らない。だから不思議に感じるのだ。この二足歩行の理解がなぜ大事かというと、ヒトという動物は立てないところから立てるようになる。この過程を真に理解するからこそ姿勢の理解が深まり、ひいてはそもそも歯並びが悪くならないというところにつながるのだ。

先生に違和感

そして、僕はその先生を初めて見た時から違和感があった。それは何かというと立ち姿と歩き姿だ。強いて言えば、歩き姿はトップアスリートに見られる動きをしていた。そして僕は聞いた。

「先生ってそもそも立ち方から違いませんか?」

先生は「そうです」と言った。僕の理解が正しければおそらく僕も含め99%以上のヒトは間違った立ち方をしている。違和感のある先生の立ち方が正しくて、他のヒトが間違っているのだ。

そして、先生が他のひとと競技をしている時にあるお願いした。

「身体を触らしてほしい」

幸い先生が男性なので助かったが、これは本当に勉強になった。競技をしているとき、つまりひとと押し合いをしている時、先生の上半身はどこも緊張(収縮)していない。表面で触れるあたりにある筋肉が一切収縮していないのだ。大袈裟な表現ではない。本当に一切だ。

ヒトという動物が立つとき、歩く程度の動きをするとき触って感じれる範囲の筋肉は緊張する必要がない。腰が痛い、肩が凝るというひとはみなうまく身体が使えていないのだ。

僕は自分の講義の時に筋肉をなるべく使わずにという意味を込めて「骨で立つ」という話をするのだが、この理解自体は合っていたと思われるが、もっと高い精度のものが存在したという衝撃があった。

おわりに

今回推手を教えていただけたことによって、僕の姿勢や解剖学や生理学の理解は大いに深まったと思う。この知見を患者さんや周りの医療従事者に還元できるように精進していけたらなと思う。

もっと高い精度、練度で歯科医療を提供できるようにしていこうと感じた体験だった。